花屋でバイトをした話し

(写真の花は文章とは関係ありません)

その当時僕は大学を一年休学し、世界一周旅行に行こうと目論んでいた。

今から考えるとそのまま大学4年になり就職活動をして社会人になる覚悟ができていなかっただけなのかも知れない。このまま日本にいるのがいやだった。時はバブル真っ最中、友人達はびっくりするくらい派手な就職説明会に出かけ景気のよい内定を次々と決めてニコニコしていた。なにしろ就職市場は当時引く手あまただったのである。

僕はといえばそんな友人達を横目に、大きな農家を借り自給自足をするというバブルとは思えない団体に所属していたので、何人かの友人達と畑をやりながら旅行資金を貯めるバイトに明けくれる日々を送っていた。

季節は春から夏に変わろうしていた。

いかん、このままではいかん。 休学したのにこのままでは旅行資金を貯めるだけで一年が終わってしまう。もっと割のいいバイトはないものか。早くお金を貯めて旅に出よう。

多少焦って来た僕は、アルバイト情報誌を片っ端から読みあさると

あった!

花屋のバイト。日給3万円から5万円。しかも会社の所在地はすぐ近く。こんないい話しがあるものだろうか。 早速電話をすると男の人が応対してくれて翌日面接をする事になった。舞い上がった僕はまだやってもいないのに、今日見つけた割のいいバイトの話しを友人に自慢気に話したのを覚えている。

翌朝、待ち合わせの駅前に早めに到着し迎えを待っていた.

いやあ しかし すごいなあ。1日3万円としても10日で30万。1ヶ月働いたら90万。夢の様な話しだ。これならすぐ出発できるぜ。

そんな事を考えながら歩道にたっている僕の前に 約束の時間に少し遅れて白くて長ーいシロナガスクジラのようなベンツがすーっととまった。

大竹君?

中から出て来た2人の男達は、どこからどうみてもカタギの男には見えなかった。

そのベンツに乗せられ近くのファミリーレストランに行くと、7、8人の人が集まっていた。皆おしなべて無表情で誰もしゃべらない。

よし行くぞ!!

面接もそこそこにそのまま僕はその日から働く事になったみたいだ。

今日は見習いだから日給12000円な、こいつの手伝いをしろ。

言われるがまま気の良さそうなチンピラ風のお兄さんと同じトラックに乗り込み、着いたさきの花卉市場でトラックの荷台に花を積み込む。他のバイトの人たちはやはりほとんど口をきかない、ベンツの男が陽気にしゃべりまくり、チンピラ風のお兄さんが愛想良く相づちをうつばかりで、淡々と積み込み作業が続いてゆく。

なんだかなあ。

腑に落ちぬまま車に乗り込み、目的地に向かう道すがらではじめて聞いたのだが、どうやら駅前の道ばたで花の路上販売をする仕事らしい。目的地の駅に着き手際よく花を降ろすお兄さんを手伝い、路上に花を並べた。

しばらくすると、お客さんがチラホラと来て花が売れて行く

ヘー意外に売れるんだなあ

お兄さんは愛想良く応対し、花の育て方を説明しお客をさばいて行く

昼過ぎ あ 俺彼女が来たから留守番よろしく!

と言われてお兄さんがしばらくいなくなった時にはびっくりしたが、夕方になったら仕入れた花は結構無くなっていた。

 

よし、大体わかっただろう、明日からは1人でやってもらうから

日給の12000円をファミレスで渡されながらベンツの男に一方的に言われてその日は終わった。面食らったが明日からは最低でも3万円の日給が貰えるのだと思いその日はまっすぐ帰宅した。

翌朝、ファミレスの昨日と同じメンバーが集合して、昨日と同じ様に花卉市場に向かった。皆一様に無表情なのは昨日と変わらない。花を積み込みちょっと間があったので隣りにいた30くらいの男の人に話しかけてみる。

いやあ 一日3万なんていったら 儲かってしょうがないでしょう

儲かる訳ないだろう...

視線は床に向けたままだ

えっ

儲かる訳ない、今日自分のトラックに積んだ花 全部君が買い取りだよ。買い取り金額以上売れればそれは全部君の取り分。でも売れなかったらそれは君の借金。俺なんか、やめたくたって200万くらい借金になっているからやめられないんだよ。

.....

からだ中の毛穴がしゅっとすぼまり視界がせばまった。

気がつけば8万円の納品書と今日担当の駅とお店を開く場所の地図を渡されていた。
とりあえず売ればいい。昨日くらい売れれば8万円くらいにはなるはずだ。しかし、到着してみるとそこは閑散とした鈍行しか停車しない小さな駅前だった。

とにかく売ろう!

そそくさと店を開けて客を待つ.
あらこれは クレマチスね

いや テッセンです。(だって鉢にテッセンて書いてある)

テッセンのことクレマチスって言うのよ

 

おばさんは一瞥を僕に加えると自転車を押して去って言ってしまった.

 

お水は一日一回朝あげてください。肥料は1ヶ月に一回でいいです。。。

どの植物にも同じ説明をする。(だってそう言えばいいと昨日のチンピラ風のお兄さんが言っていたから。)

当然売れる訳もなくお昼過ぎても1万円程の売り上げしかなかった。

やばい 確実に借金だ。僕は泥沼に足を入れかけようとしている、今抜け出ないと大変なことになる。仕入れのお金を今日全額払ってやめると言おう。銀行でお金をおろそうと探すが、なんと不思議な事にその駅には銀行がなかった。そんな駅があるのか。 愕然としたが、こうはしていられない。お店はそのままにして電車に飛び乗り沿線の大きな駅の銀行で今まで貯めた旅行資金からお金をおろした。

夕方にかけ花を大値引きでたたき売ったが、3万円くらいにしか売り上げはたたなかった。

トラックに花を積み込み集合場所のファミレス目指して246を走る。ふと車検のステッカーをみると、とうに期限が切れている。もう前しか見ないで運転した。

 

売れたか?

隣りに座ったバイトの先輩が小声で聞いて来た。

いや売れませんでした。

ため息をつき顔をしかめる先輩

あのトラック車検切れてるんですけど。

そんなこと怖くて言える訳ないだろ...

 

結局僕は自分のお金5万円ほどをたして仕入れ分のお金をその場で支払いバイトをやめることができた。ファミレスでウエイトレスさんに無駄口たたきながら支払いをするベンツ男の財布の中の一万円札のふくらみはゆうに2cmを越えていた。

帰宅し、友人達に腹を抱えて大笑いされたのは言うまでもない。

 

後日談

売れ残った花はトラックを返す前に当時借りていた畑のビニールハウスに移してあった。

さてこれをどうにかお金に買えて元を取り返さないといけない。悩んだ挙げ句結局これという名案も出なかったので、軽トラの荷台に花を積んで住宅街を訪問販売する事にした。

 

ピンポーン

あの花を買ってくれませんか。

ピンポーン

お花を格安で販売しているんですけど どうでしょう?

 

切羽詰まった顔をした男がいきなり訪ねてきても胡散臭い顔でドアを閉じられてばかりで、一鉢も売れず、結局通りがかりで見つけた花屋さんに泣きつき1万円分位買ってもらって(なんて優しい花屋さん)、残った花は借りていた畑の片隅にうっちゃってしまった。

結局僕は7月の末に旅に出て、世界一周するはずがインドに半年程滞在して帰国し、また同じ場所に戻り友人達と畑をしながら大学の最後の一年を過ごした.ちょうど夏前に畑の片隅で、去年うっちゃった花達が、再びひっそりと色鮮やかに咲き誇っていた風景が忘れられない。

 

 

 

 

 


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