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リタスとラッツ

嫌な事が重なったり、ひょっとしたはずみにわけもなくどうしようもなく厭世的になり自分の殻に閉じこもることがある。

先週出張でバルト3国に言った時の事である。
エストニアの首都タリンからラトビアの首都リガに早朝のバスで着いた我々は、疲れた体をひきずり予約してある短期貸しのアパートに向かい管理会社の若い女性レベッカと建物の前で落ち合った。鍵の開け方、シャワーの使い方等の説明をうけて4日分の料金を支払う。
あそうだレベッカ、洗濯機の使い方を教えてください。
うんともすんとも言わない洗濯機と苦闘するレベッカ。電線が根元からちぎれている事が判明、修理に時間がかかるため、交渉の結果毎日レベッカが不承不承洗濯物を取りに来て洗ってくれる事になった。 

ほっと一息落ち着いてまずはトイレに入ろうとすると、ドアが開かない。どうやらなにかのはずみでインロックされているようだ。仕方なくレベッカに電話。
トイレのドアが開かないんだけど
しぶしぶながら十数分後錠前屋と戻ってくるレベッカ。とりあえずお礼をいう。もう会わないですめば良いね。などと言って別れる。

まずは食料品など必要な物を買いに行かなくては。バルトですっかり御世話になっているスーパーマーケット RIMI でどっさり買い物をして3fの部屋まで階段をのぼる。息を弾ませながら鍵を開けようとするが開かない。何度試しても開かない。部屋を間違えたか?様々に考えを巡らすがどう考えても間違っているとは思えない。
はー。
仕方なくレベッカに電話。

イエス サー 今度はいったい何?

ドアが開かないんだけど。

そうじゃない トイレのドアではなくて、部屋のドア。

インロックなんてしてない。

40分?この暗い階段で40分待てというの?

…….わかった 待つ。

暗い階段に座り込みぼっとしていると、疲れが肩にのしかかり無口になる。同行のRが気を使っていろいろ話しかけてくる。助言に従い外を散歩すると幾分気分がよくなり、暗い階段に戻ると再び貝のごとく座り込む。Rの冗談も笑えず返事が空虚、仕方なくRは踊り場でミネラルウオーターのペットボトルを手にテニスの素振りの練習を始める。

ようやくレベッカ到着。このドアには鍵が2個着いているのだが、1つだけしか鍵は渡されていない。なのにどうやら留守の間に誰かが、もう一つの鍵を閉めてしまったらしい。どういうことなのか。謝るレベッカに文句を言うのも面倒で帰ってもらう。

はー ソファーに体をうずめる。

とりあえず外に行こう、ドアを開けるとドアの外に張り紙が。
ハウスオーナーさんへ、 あなたはこのアパートメントの住人でただひとり建物のリフォームの代金を支払っていません。至急以下の電話番号に連絡するように。
あらあら。

外にで歩き出すと、後悔が頭をもたげてきた。勝手にからに閉じこもってばかりいては、同行のRも気分の良かろうはずはない。またそんな態度ではせっかくの異国でも楽しいことなどと出会えるとは思えない。すまなんだ。もう少し積極的に、社交的に振る舞おう。顔を上げて歩こう。

そんな時に前方から大急ぎでやって来た現地人とおぼしき大男に急に話しかけられた。
駐車場の車をだすのに20ラッツ(現地通貨)必要なんだけど、コインしかないんだ。お札が必要なんだけど銀行に行く時間がないんだ、20ラッツ札持っていないか?

おや君は困っているのだね。助けが必要なのかい?幸いな事に僕は銀行で両替した20ラッツ札を持っている。これでいいのかい?

ああそれだ。ありがとう。今君の手にコインを置くからよく数えてくれ。

2と刻印されたコインを1 2 3 と数えながら置いて行く大男。
なにかいやな記憶が呼び覚まされて危険信号を僕に送っている。このリズムはおかしいぞ、どこかで聞いた事がある。

ちょっと待って。

10まで数えたコインを片手に財布を明けて自分の持つ2ラッツ硬貨と比べてみると明らかに配色が違う。

あそれは、昔の硬貨でこれは新しい硬貨なんだ。

…………..

ゴメン 今着いたばかりでラトビアのコインがよくわからなくて、本物かどうか分らないから両替出来ない。他の人に頼んでくれないか?

わかった、気にするな

と立ち去る大男。

帰国後出張費の精算をしていて、あっと叫んだ。リトアニアの2リタスと2ラッツが一緒くたに財布に入っていたのだけれど、あのときあの大男が僕に渡そうとしていたのは、この2リタスだ。20リタスは約800円 一方20ラッツは約4500円。

詐欺師というのはあっぱれな者である。心が弱った人間を見つけて瞬時に忍び込む。
昔昔、手品のような手口で見事僕から少なからぬルピー札をせしめたインドのリクシャドライバーよ、元気かな?

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