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日の光

秋晴れの午後、決算用の棚卸しの資料をようやく作り終えた僕は、保存用の自分のメモリースティックを探していたがいつもの場所に見当たらない。誰かが使っているのかしらん。スタッフにメモリースティック知らんか?メモリースティック使ってない?と尋ねてまわったのだが誰も心当たりが無いようだ。

背後に最年長スタッフI間(47歳)の気配がしたので、振り向いて
“I間さん 僕のメモリースティック知らない?”
と尋ねたのだがそれどころでは無い様子。箱の上におかれた秋冬のジャケットのサンプルをしかめ面で一心不乱にはたいている。
“なんでこのほこりは落ちへんのや?”
懸命にはたき続ける。
“I間さん、それは日の光だよ ほこりじゃない...”

窓から差し込む木漏れ日が丁度ジャケットに差し込んでいる。
I間は動きを止め、窓の外にゆっくり視線を移す。
人間誰しも老いるもの、老いる事はけして恥ずかしいことではない。
見て見ぬ振りをして探し物を続けよう。メモリースティックは何処かいなと。

“ところでI間さん それよりも僕の日の光を知らないかな?”

僕は老いるのが怖い。
人生の日の光がいつまでも僕を照らし続けてくれますように。

 

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