梅雨の日曜日のこと、チャハットのお知らせのDMに貼る切手が足りなくなり記念切手を買いに市内の郵便局へ小雨の中自転車で向かった。休日でも本局の外に張られたテントの中で、記念切手を販売しているのだ。商売熱心なことである。 あいにくの空模様なのでテントの中が薄暗い。
50円の記念切手をみせてください と事務机の向こうのメガネの中年女性店員さんに告げる。
女性店員さんが両手で差し出した薄いビニールに入れられた切手シートが、どうも光の加減のせいか見にくい。
どのようなデザインなのかはっきりみたいので明るい所でみてよいかと尋ね、道路側に切手シートを持ち出そうとすると、店員さんは切手シートから両手を離そうとしない。
僕がシートを引っ張った分、体を前に投げ出し軽いお辞儀をしたような角度に腰は曲がり、両手はまっすぐ伸ばしたままだ。指先に込められた力は強くはないが、けして離さないという意思はやんわりながらしっかりと伝わってくる。
少しだけ切手シートを自分の方に引き寄せてみる。
ほのかな緊張感と警戒感がテントの中に漂い、笑わない目が僕の胸元を見ている。
疑われているのか…
切手シートひったくり犯逮捕
犯人は 自称 会社経営 市内男性44歳 被害総額 時価500円
これ以上引き寄せると奪い返されそうな気配を感じ、シートに顔を近づけ薄暗い中で切手を確認したが、どうやらあまり好みのデザインではなかったので、
やっぱりいいです
と告げ、そぼ降る雨の中を帰宅した。