おつかれさまです。 敬老の日にすみません。
客注が入ったので生地の在庫確認をお願いします。洋服屋のよっちゃんからメッセージが届いた。
そうか今日は敬老の日なのか。
自分がいたわられる立場になりつつあることに静かにおののきつつ、生地を裁断する。
おじいちゃんお先にどうぞ。
パン屋で、前に並んでいた幼稚園児に元気に順番をゆずられたのは何年前のことだったろう。あの時、素直に好意を受け入れたかどうか記憶はさだかではないが、園児の母親の引きつった笑顔と小声のすみませんという言葉は今でも覚えている。
みうらじゅんが、「老いるショック」という言葉を使い出したのが60のときだそうだから、来年還暦を迎える僕も「老いるショック」を素直に受けいれるべき時がきているのかもしれない。
小さなブランドをやっている知り合いと話していると、そろそろ事業の継承を考え始めているという。いやいや待ってくれ、あなたは僕よりひとまわりほど年下ではないか。早すぎはしないか。僕はまだまだやりたいことがあるぞ、行ってみたいところだっていろいろある。事業の継承なんてまだまだ先のことだ、継承してくれる人がいるかどうかは別として。
インドから届いた布を洗濯し、一枚一枚畳んでいると、膝の上に赤い糸くずが落ちている。拾ってゴミ箱に捨てようとするのだが、どうしても糸くずをつまむことができない。しまいに走る軽い痛み。
よくよくみるとそれは、知らぬ間に膝にできた切り傷のかさぶたなのであった。