皮膚癌の治療で入院中の母から電話があった。
手術を明日に控えた夕刻のことだ。
台所の戸棚にお煎餅があったと思うの。それを持ってきてちょうだい。
95歳になるのだが、母の食欲は旺盛なのだ。
翌朝また母からの電話。
お仏壇にチョコレートが置いてあるからそれも持ってきてちょうだい。
父の写真の前に供えてあったチョコレートの包みを持って病院に向かう。
病室に入ると手術の準備を終えた母がベッドに寝ている。
お母さん、お煎餅とチョコレート持ってきたよ。
ああ、ありがとう。お煎餅はそこの引き出しにいれて、チョコレートはこっちにちょうだい。
チョコレートの包みを開くと二つにわけ、僕と弟に、はいと手渡した。
そんな2月14日のできごと。
病院の母 三句
バレンタインチョコ貰ふ術前の母より
手術終了待つデニーズ国領店へ春日
ティッシュボックスに句書きつけ病臥の母や春
手術も成功し快復した母は、相変わらずの食欲で元気に暮らしている。