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老化と集中

先日妻が100円ショップで老眼鏡を買って来た。
冗談で試しにかけてみたのだけれど、これが驚く程よく見える。新聞の文字もくっきり、すっきり、とても読みやすく、外してみると文字の輪郭がぼやけ、いままでこの状態で読んでいたのかと逆に愕然とした。
要するに年なのだろう。根拠の無い健康への自信が最近自分の中で揺らいでいる。去年はデング熱にかかって一ヶ月位往生したしな。健康診断は2年受けてないなあ、身体は固くなったしなあ。なんて思いつつも過ぎていく毎日。

そんなある日の事、いつもの友人達とコートを借りてテニスをした。朝7時に集合して練習、後半は試合というのがお決まりのパターン。和やかに笑いながらその日も、過ぎていったのだが、試合の途中からなんか自分の感覚がおかしいのに気がつきだした。普段は試合中に冗談などを言い合いながら、賑やかにプレーしているのだが、ふと気がつくと言葉が出てこない。対戦相手になにか言われても、何も口から出てこない。 おかしい。 かといって身体はよく動いているのだけれどいつもと感覚が違う。なんだか自分だけ違う世界にいるような気さえする。
もしかして、もうじき脳の血管などが切れるのではないだろうか?これが、僕がする最後のテニスのプレーになるのではないか。車いすに乗ってテニスコートの外から試合を見てる自分の姿を想像する。いや、テニスしている場合じゃない、家族や友人に電話をかけて伝える事があるんではないだろうか。
どうしよう。
考えている間にも試合は進む。言葉は出ないが身体は動く。いつまでたっても血管は切れないし、心臓に異変も起きない。
試合は続く。異変は起こりそうにない。
しかも、ものすごくボールが見えて、ずっとよいプレイが続いている。

もしかして身体はおかしくないのではないだろうか。いやむしろものすごく僕は調子がいいのではないか。今、僕のプレーはきれている。
どうやらいまだかつて無い集中状態にはいりこんでいるようなのだ。
ボールだけを見ている。会話をする暇などない。これは一種のゾーンに違いない。

しかし試合は負けた。

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