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社長の悦び

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チャハットは有限会社という法人である。そして僕は名目上代表ということで「社長」ということになる。

「社長」
いい響きではないか。

ベンツ、ゴルフ、美人の秘書、お昼に鰻、料亭、愛人 .....

このようなイメージを浮かべてしまうのは僕が昭和生まれだからだろうか。「社長」という単語にはなんとも言えない男の脂ぎったロマンの芳香が漂っているように思えていたのはいくつの頃までだったか。子どもの頃、テレビで見た社長は、会社というヒエラルキーの頂点に君臨する夢を叶えた豪放磊落な中年男の悦びというイメージがあった。

チャハットをはじめて20数年。会社組織にして10年。

果たしてチャハット「社長」は昭和の社長のような栄華をきわめているのだろうか?ベンツに乗ってゴルフをして美人の秘書を雇いお昼に鰻を食べて夜は料亭に行き愛人を囲っているのだろうか。

答えは否である。
悲しいのか嬉しいのかわからないけど、そのようなことには全く縁がない。(僕の今後の社内的立場ために、従業員の女性達、いわゆるチャハットレディーの皆さんが美人揃いであるということは付記しておきたい。)
「社長」をやってわかったのは「社長」は会社の雑役夫であるということ。その仕事は多岐にわたり、商売のことからチャハットの日常生活のことまで様々だ。僕が子どもの頃、想像した漫遊社長ライフはチャハットのどこにもない。たまには鰻くらい食べたいとは思うが。

しばらく前のお昼時のこと。事務室から隣りの作業部屋に道具を探しにいった。しばらくすると、事務室からチャハットレディーの会話が聞こえてくる。

「あれ社長はどこにいった?」
「コンビニに行ったんじゃない」
「なんだ。コンビニ行くなら行くって言って欲しいよね。お菓子買ってきて欲しかったのに」
「じゃあ携帯に電話してみれば」
しばらく間を置いて、僕の机の上で携帯が鳴っているのが隣りの部屋から聞こえる。
「なんだよ。忘れてってるよ。使えないなあ。」
「じゃあ 帰ってきたら、もう一度買いに行ってもらえば」
「そうするか」
いたたまれず
「隣りにいまーす」
大きな声で事務室に戻る。
気まずい空気と苦笑い。
こんな時に僕は大きな悦びを覚える。

「隣りの部屋に行きまーす」
「トイレに行きまーす」
「コンビニに行きますけど何か買ってきますかー?」
それからは部屋を出る時に必ず行く先を告げるようにしている。

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