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YKK Neighbor の連載4回目です!
インドでの危機一髪体験について書きました。

以下本文ーーーーーーーーーー

文房具屋街、鍛冶屋街、リボン屋通り。市場のあふれかえる人ごみにもまれながら、お気に入りの品々を探すのは出張の楽しみのひとつです。その日も朝から旧市街の市場などを回るつもりで、オートリクシャを捕まえたのですが、その運転手の客引きのしつこいことには閉口しました。

「いいものがあるんだ、絶対気に入るはずだよ」

運転席から顔を半分だけこちらに向けながら愛想良く話しかけてくる小太りの男の説得に根負けして、5分だけ、と言う約束で彼の友人のツーリストに人気だと言う土産物屋に寄ることにしました。

「すぐだよすぐ、もう着くから」

お店のあまりの遠さに不満顔の僕を運転手がなだめます。ようやく着いたのは寂れたダウンタウンの一角にある小さな店。うながされるまま通された薄暗い部屋の棚には埃をかぶった申し訳程度の商品しか並んでおらず、どうひいき目に見てもお店と呼べる品揃えではありません。

「よく来てくれたな、まずはチャイでも飲め。」

小さな窓から射し込む陽光を背に座る店主らしき人物と、取り囲むように立つ無言の男達。手渡されたほのかに温かいステンレスの小さなコップ。僕の心の警報機が音をたてています。…このチャイ飲めるのか…飲んでいいのか?….いや飲んじゃダメだ…自分の直感を信じろ!

というのもインドでは最近睡眠薬を使った昏睡強盗が多発していて、友人のインド人のお父さんも被害にあって九死に一生を得たという話しを聞いたばかりだったのです。とりあえずコップを机に置き、埃まみれの商品を手にとりゆっくりと眺めるふりをする僕の背中に男達の暗い視線が絡み付きます。

「5分って約束だったよね、欲しいものはないから帰るよ」
「チャイは!?」
「チャイはいらないよ ありがとう 喉が乾いてないんだ」
「なぜチャイを飲まないんだ?お前は俺の友達を疑うのか」

背中から聞こえるドライバーの言葉には答えず、店を出ると大通りまで一気に歩き、通りかかったリクシャに飛び乗ったのでした。

こんなに差し迫った状況は滅多にありませんが、市場での買い物も常に判断を迫られます。ふっかけられていないだろうか、騙そうとしているのではないか、迷った時はその時の直感を信じて決断。長年の経験のおかげで直感の精度はかなりの物だと自負しています。なんて原稿書いてる時に届いたインドからの箱入りスプーンセット、現地でサンプルチェックした箱以外全部違うものでした。

love India!

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